プロローグ

 始まりの混沌、「神の知恵」に至る禁断の扉

 言葉の生まれる昔より、預言者は扉となり彼方の言葉を伝え、
 人の知恵を手に入れた賢者は扉の先にある至りを目指した。

 知恵を持って世界を制する
 掌の中にある、「鍵」を使って。

               ・

 男はずっとそこで書物を読んでいた。
 そこは大国のとある王宮の書物庫であろう。
 豪華な装飾具はいっさいなく、あるのはクモの巣と誇りをかぶっ
 た古い書物ばかりの書物庫で、男は来る日も来る日も書物を
 読み続けていた。

 どのぐらい時間が経ったのだろうか。
 「そうか、そうだったのか・・・」
 そうつぶやいて、男はついに立ち上がった。
 足早に書物庫を出て行くと、自室に戻り旅支度を始めた。

 「王子、どちらにいかれるのですか?」
 かなり高齢の老人が、男を見るやいなや弱弱しい声を発した。

 「すこし旅に出てくる。」
 「この国の滅亡がかかっている時に、城を出られては困ります。」

 老人にとめられても、一向に支度の手をとめようとはしない。

 「ユーフラテス川の対岸からいつ敵が攻めてきてもおかしくない
  のですぞ。」
 「王子!王子ー!!」

 老人は男が城から出て行くのを黙って見送るしかなかった。

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